Play Fair 2008キャンペーンについてのニュース
   
労働権をめぐる中国の現状に関するニュース PDF プリント メール
2008/03/20 Thursday 00:00:00 CET
北京オリンピック開催に至るまでの間に、中国の労働権に果たして進展があったのか知りたい人はたくさんいることでしょう。プレイフェアにも、労働者の権利尊重を主張する中国の人々が直面している状況について問合せがありました。このようなご質問にお答えするため、国際労働運動香港連絡事務所(IHLO)がプレイフェア2008向けに最近の労働関係ニュースをまとめました。

1)    児童労働


プレイフェア2008の報告書「労働権に関してオリンピックに与えるメダルはない(No medal for the Olympics on labour rights)」が発行された後、広東省東莞市で児童労働スキャンダルが起きた。2007613日、東莞市の主要紙は四川省の中学生約500人が体験学習制度を乱用した被害にあったことを報じた。この制度は中国西部から若い労働者を調達し中国南東部にある国内有数の工業都市、東莞市の電子部品組立工場に送り込むもので、学校の授業料の代償という形をとっていた。被害にあった学生は、強制残業を含め一日14時間の勤務を強制され、給料は天引きされていたと不満を述べた。そのうえ休暇は一日たりとも取得することが許されず、病欠も認められなかったという。体験学習制度からはずれることを希望する学生もいたが、家族に連絡を取るすべはなく、家に帰るための交通費を払うことも出来なかった。この報道は、奇しくもオリンピック関連商品製造工場での児童労働の使用を指摘したプレイフェア2008の報告書の発表と時期を同じくして報じられた。(1[国際労働運動香港連絡事務所(IHLO)がまとめた就学児の使用に関する報告「中国の児童労働と『体験労働』~違法行為の曖昧な線引き(Child labour and “work experience” in China – the blurred lines of illegality)」をあわせてご参照ください。 www.ihlo.org/ ]   

2)    奴隷労働


その直後の20076月下旬、中国山西省のレンガ工場で発覚した奴隷労働問題が新聞の見出しを独占し、世界中を震撼させた。法執行の怠慢、そして政府役人と奴隷の「主人」との癒着までもが絡んだこのスキャンダルは、河南省の保護者約400人が行方不明の子ども達の捜索協力を人々に訴えことで発覚した。子どもたちだけでなく、多くの成人労働者が、猛犬に見張られ、ごろつきの暴力にさらされるなか、空前の建設ブームに追いつくためハイペースで強制的に働かせられていた。中国において唯一公認されている労働組合である中華全国総工会(ACFTU)には、山西省だけでも10万人を超える職員がいる。にもかかわらず、山西省レンガ工場の問題は長年にわたり見過ごされていた。山西省政府が開いた記者会見によれば、95人の役人がこの事件を受けて罰せられたという(その中にACFTUの関係者はいない)。ただし、ほとんどは訓告、短期間の停職、あるいは降格処分を受けただけにとどまった。 (2 ) 厳罰に処された者あるいは実刑を受けた者は誰もいない。 [この件に関する情報はIHLOホームページにも掲載されています。http://www.ihlo.org/LRC/WC/150607b.html ]

3)    労働安全衛生


2007817日に起きた華源鉱業の鉱山事故は近年最悪の事故となり、181人が死亡するに至った。中国国営メディアはこの事故を「自然災害」に分類しようとしたが、数々の証拠がこれはむしろ人災であったこと示している。[事故の概要と分析については、「終わりの見えない死亡事故~華源鉱山事故~事故は「自然災害」ではない(“No end in sight for deadly accidents that claim thousands of lives - The case of Huayuan coalmine – Not a “natural disaster”’)」をご参照ください。 http://www.ihlo.org/LRC/WC/150607b.html ]

4) 活動家の拘束


a) 2007年7月6日黒龍江省佳木斯(ジャムス)市在住のYang Chunlin (楊春林)が勾留され、83日に「国家転覆扇動罪」の容疑で正式に逮捕された。楊の逮捕を命じたのは中国公安省であることは明らか。現在、楊は黒龍江省にある黒通拘置所で拘禁されており、家族との面会も許されていない。楊は土地収用をめぐる争いに巻き込まれた農民の支援活動を行っていたが、その村で「私たちがほしいのは人権であって、オリンピックではない」と題した公開書状の署名集めを行ったとして逮捕された。書状には1万人が署名したと言われており、そのほとんどは土地を奪われた黒龍江省の農民だという。黒龍江省で強制立ち退きに抵抗している大勢の農民が署名を行ったのは、腐敗した役人によりオリンピックを口実に土地や住宅を取るに足らない補償金と引き換えに奪われた都市部の住民に同情したためである。 (3 ) 楊の二人の弁護人は、楊が拘置所内での拷問の有無について話すことが許されていないこと、また接見が拘置所において役人の監視下で行われることに懸念を表明している。

b) 王桂林于長武: 二人は、楊春林の公開書状「私たちがほしいのは人権であって、オリンピックではない」の活動における黒龍江省富錦市の村民代表である。2007年後期にわたり、王と于の両名はたびたび尋問を受けたほか、短期間拘束され、監視下にも置かれた。2008128日、王桂林は「社会秩序を乱した」として労働再教育(RTL)に1年半送られることになった。また、もう一人の村民代表である于長武も117日にRTLに2年間送られることになった。于の弁護人によれば、于の「罪状」には「国家の安全を侵害し、社会秩序を乱し、外国メディア(特に法輪功メディア)の取材を受け、中国の土地制度に関する記事を外国のウェブサイトに公表し、かつ記者の取材に対し『私たちがほしいのは人権であって、オリンピックではない』と述べたこと」である。富錦市の村民は、市の役人により10万ヘクタールの農地が収用されたと訴えている。村民は楊春林、王桂林、于長武などのリーダーを先頭に富錦市政府と長期にわたり土地をめぐり争っているが、これら3人のリーダーはいずれも村民の権利を守ったことで身柄を拘束されている。
c) 胡佳: 人権活動家である胡佳は「国家転覆扇動」の容疑で起訴された。しかしこれは中国の人権問題に対する国内の活動家による批判を黙らせるための中国当局の企てと思われる。胡佳は弁護士や家族と連絡を取ることが許されず、またB型肝炎による肝臓病治療に必要な毎日の服薬などの医療も受けることが出来ない状況に置かれている。彼の妻である曾金燕も生まれたばかりの乳児とともに自宅軟禁中。外出は許されず、電話線もインターネット回線も切断されている。胡佳の家族が正式に北京公安局から起訴通知を受けたのは2008129日だった。胡佳は現在、北京市朝陽区豆各荘にある北京市公安局の拘置所に収監されている。やはり厳しい監視下に置かれている彼の弁護人、李勁松は、1月中旬に健康状態を理由に保釈請求書を提出した。しかし、請求は月末になって警察により正式に却下された。胡佳は数ヶ月の自宅軟禁を経て正式に逮捕されたが、これは彼の平和的人権擁護活動の継続を阻み、オリンピックを控え中国の人権問題に対する批判を黙らせるための企てであったと考えられている。また、胡佳と同様の運動に関わっている他の中国人活動家に向けたメッセージともとれる。胡佳は自分が拘束される前に、必要な法的手続きを踏まず逮捕に踏み切る北京警察の人権侵害に対し懸念を表明していた。中国の人権問題に対し公然と批判を述べてきた胡佳を含め、権利擁護活動家を黙らせ、投獄するために、以前からこの国家転覆扇動罪が使われている。200711月、胡佳はブラッセルで開かれたEU議会の公聴会にウェブカメラを通じで参加し、中国がオリンピックに向けて人権問題を改善させると誓った約束を履行していないと述べた。[発信元 AI UK]

5)    NGOに対する規制の強化


2007年夏は、中国で草の根活動をしているNGOにとっては不運な夏となった。中国市民社会の発展を追った非営利目的のニュースレター「チャイナ・デベロップメント・ブリーフ(CDB)」の当時の編集長だったニック・ヤングによれば、さまざまな団体のスタッフから彼らが煩わしい監視を受けており、10月の中国共産党第17回党大会および2008年北京オリンピックにむけてそれがどんどんひどくなっているという連絡がCBAに届いていた。中には、閉鎖もしくは「組織内」の定期刊行物の発行停止を命じられた団体もあった。CDB自身も20077月にニュースサイトの運営停止を命じられた。

6)    労働活動家を狙った襲撃


深圳の労働団体や法定代理人に対する激しい攻撃が続いている。深圳労働者センター(DGZセンター)はかねてから市民や香港の団体に支持されていた出稼ぎ労働者支援組織である。センターは無償の図書貸し出し、労働法の講習、無料法律相談をなどのサービスを、深圳で働く出稼ぎ労働者に提供している。最近では、中国政府が労働者保護を目的に導入する新法「労働契約法」に関わる啓発を行っているほか、労使間の緊張緩和を目的に法律アドバイスを実施していた。20071011日ならびに1114日、正体不明の一団がセンターにやってきてDGZの事務所を破壊した。また1120日には、センターの代表者である黄慶南が、負傷した労働者を訪問するために事務所を出た直後に刃物を持った二人の暴漢に襲われた。黄氏は重傷を負った。また、賃金を要求して使用者から暴力を振るわれたり、口で脅されるようなことが頻繁に起きていることが労働者から伝えられている。警察に相談しても取り合ってもらえない。市が無関心であることにも失望している。センターと黄氏への襲撃は新法の無効化をねらったものであり、中央政府の労働政策を歪め、独立労働団体への反感を公然と見せつける行為である。DGZセンターの事件に対し適切な処置やきちんとした捜査が行われない場合、それは暴力が勝るという遺憾かつ憂慮すべきメッセージが伝わることになるだろう。そして深圳ならびに他の中国の市民団体に対する襲撃はさらに拡大し、彼らの活動の発展は貧弱なものになってしまうかもしれない。

龍崗区、宝安区、東莞市の労働者によると、賃金を要求すると殴られたり言葉で脅されたりするという。

襲撃事件以来、現地と香港の団体が協力して対応に当たっており、また国際レベルではITUC国際労働組合総連合やCCCクリーン・クローズ・キャンペーンもこの問題を取り上げ、地方当局に抗議文を送っている。また黄氏の膨大な治療費のための資金集めも行われた。 [事件の詳細はIHLOの報告をご参照ください http://www.ihlo.org/LRC/W/271107.html ]

7)    「労働契約法」スタート


2年以上の及ぶ草案と審議そして期待を経てついに労働契約法が200811日に施行された。使用者あるいは地方当局により同法がきちんと守られているかどうかについてコメントするには時期尚早であるが、法の施行にいたるまでに労使紛争や整理解雇が多発するという現象が起きた。新法により(少なくとも書類上は)、使用者は意のままに労働者を解雇することが難しくなり、法律には具体的な補償条項も定められている。また、契約を結ぶことなく労働者を雇用した場合の罰則も適用される。しかし今現在も何百、何千という労働者が契約を結ばずに働いているのが現実である。

20079月末以降、中国最大の通信機器メーカー「華為技術」は希望退職という形で全従業員6万人のほぼ12%相当の従業員を削減した。「これらの元従業員に対しては勤続年数に応じて退職金が支給されたが、ほとんどは自分の意思に反して辞めなければならなかったと感じている。退職者は勤続年数8年以上の者が大半であった。」 新法では、勤続年数10年以上の従業員には定年退職年齢に達するまで雇用を保証することが定められているため、同社の解雇がそれを避けるための措置であることは明白である。 [詳しくはIHLOの報告書をご参照ください: http://www.ihlo.org/LRC/W/101207.html ]

備考:
1 報告書原文(中国語): http://news.sina.com.cn/c/2007-06-19/144712051182s.shtml
2 報告書原文(中国語): http://www.takungpao.com/news/07/07/17/MW-766423.htm
3 楊春林の事件に関する詳しい背景情報: http://www.crd-net.org/Article/Class9/Class15/200709/20070904103042_5557.html
 
 
 
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